私たちの生活にも身近な飲料メーカー、ヤクルト本社(以下、「ヤクルト」)と森永乳業の決算書を比較します。
複数の会社の決算書を比較することで、その会社の個性がよりわかるようになります。
両社の違いを感じて頂き、少しでもあなたの投資の参考になれば嬉しいです。
なお、この記事では、11/9(木)、11/14(火)に発表された2024年3月期決算第2四半期決算の数値を用いて比較します。
■PL(損益計算書)の比較
まずはPLを比較します。
・売上高
2024年3月期第2四半期の売上高・増収率は以下の通りです。
売上高は森永乳業が上回りました。
期初の業績予想に対する進捗率はヤクルト:47.6%、森永乳業:52.1%。
50%を割ったヤクルトは、今回の決算発表で通期予想を下方修正しました。(531,000百万円→513,000百万円、▲3.3%)
ヤクルトのセグメント別売上高構成比は以下の通りです。
地域別にセグメントが分けられており、約半分の49%が日本国内です。
26%のアジア・オセアニア、15%の米州が続きます。
海外売上高比率は43%です。
国内飲料はYakult1000(宅配)やY1000(店頭)の販売本数増により増収し、海外飲料は価格改定効果と為替の影響により増収しました。
森永乳業のセグメント別売上高構成比は以下の通りです。
33%の主力食品は飲料の「マウントレーニア」「リプトン」、アイスの「ピノ」「パルム」「モウ」などです。
22%の栄養・機能性食品はヨーグルトの「ビヒダス」「パルテノ」などです。
17%のBtoBは外食向けなどの業務用乳製品です。
12%の海外で最も大きいのはドイツのMILEI社で海外の約66%を占めます。
過去11年(2013年3月期~2023年3月期)とこのQ2の売上高の推移は以下の通りです。
森永乳業の売上は伸びておらず、2022年3月期は▲13.7%の減収、2023年3月期も過去の水準には届きませんでした。
一方のヤクルト、2021年3月期は▲5%の減収でしたが、その後+7.6%、+16.4%と増収が続いています。
両者の売上高の差は縮まっています。
・営業利益・純利益
2024年3月期第2四半期の営業利益・純利益は以下の通りです。
営業利益はヤクルトが、純利益は森永乳業が上回りました。
ヤクルトが営業利益・純利益ともに通期業績予想を下方修正したのに対し、森永乳業はいずれも上方修正しました。
森永乳業の純利益は、東京工場跡地売却による固定資産売却益65,760百万円の計上もあり、今期特有の要因が大きいです。
とはいえ本業の利益を示す営業利益も前年同期比+42.7%と大幅に良化しています。
2Q時点で20,856百万円なのに、通期予想が27,000百万円というのは保守的すぎるようにも見えますが、今後の決算を観察したいと思います。
【ヤクルト】
・営業利益
期初:75,500百万円→67,000百万円
・純利益
期初:58,500百万円→52,000百万円
【森永乳業】
・営業利益
期初:20,000百万円→27,000百万円
・純利益
期初:57,700百万円→61,700百万円
ヤクルトのセグメント利益は以下の通りです。
ヨーロッパは赤字です。
日本が利益を牽引しました。
森永乳業のセグメント利益構成比は以下の通りです。
売上高でも33%を占めた主力食品が営業利益の38%と、稼ぎ頭です。
過去11年(2013年3月期~2023年3月期)とこのQ2の営業利益・純利益の推移は以下の通りです。
近年ヤクルト1000などが好調だったこともあり、ヤクルトの営業利益は大きく伸びました。
一方の森永乳業は2023年3月期は原料乳・原材料・エネルギー価格の上昇に苦しみ減益でしたが、今期は上期にして過去の通期営業利益に迫る推移となっています。
ヤクルトは概ね右肩上がりで純利益を伸ばしています。
森永乳業は、2022年3月期は固定資産売却益21,214百万円(近畿工場跡地、港南ビル)、今期Q2は固定資産売却益65,760百万円(東京工場跡地)と、固定資産売却益によってややイレギュラーな推移になっています。
特殊要素を差し引いた通常時の利益創出力を意識して決算書を読み解く必要がありますね。
・利益率・ROE
2024年3月期第2四半期の利益率・ROEは以下の通りです。
営業利益率はヤクルトが上回りました。
純利益率とROEは固定資産売却益の影響もあり、森永乳業が上回りましたが、一時的な要因の影響が大きいため注意が必要です。
過去11年(2013年3月期~2023年3月期)とこのQ2の営業利益率・純利益率の推移は以下の通りです。
営業利益率は両社とも概ね改善傾向にあります。
■BS(貸借対照表)の比較
次に、BSを比較します。
2024年3月期第2四半期の資産合計、自己資本、現金、有利子負債、自己資本比率は以下の通りです。
資産合計は約1.4倍ヤクルトが上回りました。
自己資本と現金が多く、有利子負債は少なく、自己資本比率は高く、財務の安全性はヤクルトの方が高いです。
両社のBSを図にすると以下の通りです。
ヤクルトは現金(262,725百万円)が資産合計の32%ほどあり、負債合計(198,938百万円)を上回っています。
■その他の項目(株価、配当など)
株価、配当など、そのほかの項目を比較すると以下の通りです。
・PER・株価
PERはヤクルト:18.8倍、森永乳業:3.8倍です。
森永乳業のPERは予想1株利益に今期特有の事象である固定資産売却益が含まれているためです。
両社の株価の推移は以下の通りです。
まずはヤクルトです。
ヤクルト1000などが好調だったこともあり、去年から大きく上昇し、今年5月に上場来高値を記録しましたが、その後下落を続けています。
現在の株価は、5月の高値から▲40%も下落した水準です。
続いて、森永乳業です。
コロナショック後上昇を続け、2021年9月には上場来武値を記録しました。
その後、最高値から▲46%ほど下落した後、じわじわと回復基調にあります。
・配当・増配率
配当利回りは、ヤクルト:1.77%、森永乳業:1.88%です。
それほど高い水準ではありません。
配当性向は、ヤクルト:33.3%、森永乳業:7.2%です。
森永乳業は一過性の固定資産売却益の影響を除けば25%前後になるかと思います。
過去8年間と2024年3月期予想の両社の配当の推移は以下の通りです。
2016年3月期はヤクルト創業80周年の記念配当があったため翌年の配当は減っていますが、それを除けば両社ともに毎年増配を続けており、配当意識は高いと言えます。
特にヤクルトの近年の増配率は素晴らしいものがあります。
両社とも配当性向は特に高いわけでもなく、今後の増配も期待できるように思えます。
・株主優待
ヤクルトは100株以上保有で商品の詰合せ(ジュース、そうめん)と、東京ヤクルトスワローズオフィシャルファンクラブに無料入会できる権利が送られます。
森永乳業は100株以上保有で、自社製品930円相当(Aコース:豆腐6丁、Bコース:商品詰合せ)もしくは1,000円の寄付から選択できます。
■おわりに
身近な飲料メーカー2社の比較、いかがでしたでしょうか?
グラフや決算説明資料を多く用いて、視覚的に両社の違いを感じて頂けるように意識しました。
売上や利益の伸び、財務の安全性、増配の推移ではヤクルトが上回った印象です。
ただし、足元では通期業績予想を売上高・利益ともに下方修正しました。
一方の森永乳業は一過性の固定資産売却益があり評価が難しいところですが、本業の利益を示す営業利益が価格改定効果もあり今期は好調に推移しており、これが来期以降も継続することが期待できるのかどうかが重要なチェックポイントのように感じました。
なお、直近の四季報では、それぞれ以下のようにコメントされています。
■ヤクルト
【踊り場】国内は第4四半期に新工場で増産始まる高単価『ヤクルト1000』が伸長。ただ海外は柱の中国、インドネシアが景気後退で数量減。増益幅縮む。増配。25年3月期は国内、米州好調も中国停滞続く。 |
【医薬品】抗がん剤『エルプラット』などがん関連薬の製造・販売の権利を高田製薬へ譲渡。新薬なく成長性乏しいと判断。ポッカサッポロの植物性ヨーグルト事業取得。 |
■森永乳業
【上振れ】『マウントレーニア』販売再拡大。アイス猛暑効果。値上げで全体では数量停滞も採算改善。光熱費負担増は想定以下。独会社は下期に市況高恩恵剥落だが一転営業増益。工場跡地売却特益。増配。25年3月期は販促でビフィズス菌関連伸長。 |
【機能性】競争激化で数量伸び悩む機能性ヨーグルトは販促費投下で価値訴求。23年12月バター、クリームで約4~7%値上げ。 |
今後四季報のコメントがどう変わっていくかも、投資のヒントになりますね。
身近な銘柄ですので、ヒット商品など変化を感じやすいところも投資対象として面白いところですね。
皆さんはどうお考えですか?
この記事を通して、複数の会社を比較する面白さを感じて頂けたら嬉しいです。
本日もお読み頂きありがとうございました!
★★私が株式投資において参考にした書籍を以下の記事にまとめています!★★
よろしければご覧ください!
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