2023/3/31(金)、「三井物産が総還元性向33%超を検討」と報じられ、商社株に期待の買いが集まりました。
東証によるPBR1倍割れ銘柄へのメスも本格的に入ることで、自社株買いも含めた株主還元策に注目が集まります。
三井物産をはじめとした総合商社は株主還元に積極的です。
この記事では、5大商社の「配当性向」(純利益に対する配当の割合)をチェックし、利益に対する配当余力を比較していきます。
皆さんの投資の参考になれば幸いです。
■配当性向とは?
5大商社の数値を見る前に、簡単に配当性向について説明します。
配当性向は、
で計算します。
100億円の純利益を出した会社が、そのうち30億円を配当金として支払う場合は、配当性向は30%です。
配当性向が高い方が、より株主還元に積極的であることを示します。
一方、配当性向が高すぎる場合は、これ以上配当を増やす余力が少ないとの見方もできます。
こんな観点で各社の配当性向を見てみて下さい。
■5大商社の配当性向(過去9年+2023年3月期予想)
過去9年(2014年3月期~2022年3月期)と2023年3月期予想の配当性向は以下の通りです。
表の中の「-」は、純利益が赤字となったため配当性向が計算されない年です。
ご覧の通り、伊藤忠商事はこの10年赤字がありません。
利益創出の安定感は5大商社内で随一です。
要因の一つは非資源ビジネスの比率が高いことです。
各社の資源・非資源の構成比については別の記事にまとめていますので、興味のある方はご参照下さい。
参考:資源?非資源?5大総合商社の純利益構成比を比較!(2022年度第3四半期))
2021年3月期はコロナ禍で業績が悪化した一方で、増配は続けた会社が多く、配当性向が高まりました。
三菱商事に至っては、純利益以上の額の配当を支払っています。
これまで積み上げてきた利益剰余金が潤沢にあるからこそできる技です。
2023年3月期予想の各社の配当性向は19.6%~26.1%です。
資源高の追い風によって純利益が非常に大きくなる見込みですので、その分配当性向は他の年と比べると落ち着いている印象です。
■5大商社の1株利益と1株配当の推移
配当性向は、「1株当たり配当 ÷ 1株当たり純利益 × 100%」で算出します。
1株当たり純利益(以下、「1株利益」)の推移、1株当たり配当(以下、「1株配当」)の推移、それぞれ見ていき、5大商社の全体的なトレンドをまずはつかみましょう。
・1株利益(全体のトレンド)
まず、1株利益の推移です。
2016年3月期は、資源価格の下落による巨額の減損処理(チリでの銅鉱山開発など)もあり、三菱商事と三井物産が創業来初の赤字を出しました。
2021年3月期は、コロナ禍での業績悪化により多くの会社の1株利益が下落しました。
2022年3月期、2023年3月期予想は、資源高の追い風もあり、各社1株利益が大幅に増加しています。
総合商社は資源価格の影響を大きく受けやすいため1株利益も上げ下げが大きいのが特徴ですが、その中でも非資源ビジネスの比率の大きい伊藤忠商事の推移が安定していることが見て取れます。
2021年3月期には、純利益で三菱商事を抜いてトップに輝き、業界を驚かせました。
・1株配当(全体のトレンド)
続いて、1株配当の推移です。
2016年3月期や2021年3月期など、業績悪化により減配している年もありますが、概ね右肩上がりで推移しています。
1株利益の推移とは随分印象が違いますね。
ここ数年は「累進配当」の方針を打ち出している商社も多く配当狙いの投資家の人気を集めています。
・三菱商事の1株利益と1株配当の推移
ここからは、会社ごとに、1株利益と1株配当の推移をグラフにしてみていきます。
各社の特徴を見ていきましょう。
まずは、三菱商事です。
創業来初の赤字となった2016年3月期こそ減配しましたが、それ以外の年は増配を続けています。
コロナによって業績が大きく悪化した2021年3月も増配しています。
「中期経営戦略2024」の中では、
・30~40%程度の総還元性向
・機動的な自社株買い
を掲げています。
・三井物産の1株利益と1株配当の推移
続いて、三井物産です。
三菱商事と同じく2016年3月期に創業来初の赤字となりました。
2016年3月期は配当維持(64円)でしたが、翌2017年3月期は減配(55円)しました。
コロナ禍前の2020年3月期も増配はありませんでした。
2019年3月期から2021年3月期にかけては1株利益が伸びずに苦戦していたことがわかります。
「中期経営計画2023」の中では、
・機動的な自社株買い
を掲げています。
・伊藤忠商事の1株利益と1株配当の推移
続いて、伊藤忠商事です。
1株利益と1株配当がキレイに右肩上がりで推移しています。
5大商社で唯一この10年純利益の赤字がなく、2015年3月期以来8年連続増配予定は5大商社で最長です。
「2021~2023年度 中期経営計画」の中では、
・ステップアップ下限配当の再導入(2023年度1株130下限)
・2023年度までに配当性向30%をコミットメント
を掲げています。
・住友商事の1株利益と1株配当の推移
続いて、住友商事です。
コロナ禍の2021年3月期は大きな赤字を計上し、減配を余儀なくされました。
「中期経営計画 SHIFT 2023」の中では、
・2020年度と同額の1株70円以上を維持
・連結配当性向30%程度が目安
とされています。
・丸紅の1株利益と1株配当の推移
最後に、丸紅です。
2020年3月期に大きな赤字を出し、2021年3月期は減配(35円→33円)しました。
2016年3月期にも減配(26円→21円)しており、この10年で2度の減配をしているのは5大商社で丸紅だけです。
「中期経営戦略GC2024」のうち、株主還元方針については2023年2月3日に更新され、その中では、
・総還元性向30~35%
・機動的な自己株式取得
が掲げられています。
■おわりに
5大商社の配当性向、1株利益・1株配当の推移を見ていきましたが、業界全体のトレンドや各社の特徴を感じて頂けましたでしょうか?
少しでも皆さんの投資判断の参考になれば嬉しいです。
最後にもう一つグラフを示します。
こちらは直近6年間純利益を出し続けている3社、三菱商事・三井物産・伊藤忠商事の3社に絞った配当性向のグラフです。
現在の総合商社の3強を見ると、2022年3月期、2023年3月期予想と、いずれも三井物産の配当性向が低いことがわかります。
冒頭で、「三井物産が総還元性向33%超を検討」との報道に触れましたが、この検討の背景にはこうした業界内の競争もあるのかもしれません。
配当性向が低い方がさらなる配当余力があると言えますので、特に三井物産の今後の決定が楽しみですね。
5月に公表されるであろう2026年3月までの中期経営計画でどのような内容が示されるのか、ぜひ注目しましょう。
本日もお読み頂きありがとうございました!
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