海運大手2社の日本郵船と商船三井の決算書を比較します。
複数の会社の決算書を比較することで、その会社の個性がよりわかるようになります。
両社の違いを感じて頂き、少しでもあなたの投資の参考になれば嬉しいです。
なお、この記事では、10/31(火)、11/6(月)に発表された2024年3月期決算第2四半期決算の数値を用いて比較します。
■PL(損益計算書)の比較
まずはPLを比較します。
・売上高
2024年3月期第2四半期の売上高・増収率は以下の通りです。
売上高は日本郵船が約1.5倍上回りました。
両社とも減収で、日本郵船は2桁の減収となりました。
両社とも、Q1、Q2と、決算発表毎に通期業績予想を修正しています。
【日本郵船】
期初:2,300,000百万円
→ Q1:2,170,000百万円(下方修正)
→ Q2:2,280,000百万円(上方修正。ただし、期初よりは低い。)
【商船三井】
期初:1,490,000百万円
→ Q1:1,530,000百万円(上方修正)
→ Q2:1,590,000百万円(上方修正)
日本郵船のセグメント売上高構成比は以下の通りです。
売上高の48%、およそ半分が不定期専用船事業です。
定期船事業、航空運送事業、物流事業をあわせて、「ライナー&ロジスティクス事業」と呼んでおり、3事業合計で43%です。
商船三井のセグメント売上高構成比は以下の通りです。
売上高の37%を占める製品輸送事業には、コンテナ船事業や、自動車船・港湾・ロジスティクス事業が含まれます。
同27%のエネルギー事業、同23%のドライバルク事業が続きます。
過去11年(2013年3月期~2023年3月期)とこのQ2の売上高の推移は以下の通りです。
全ての年で日本郵船が上回っています。
増収・減収の推移は両社概ね共通していますが、直近数年は日本郵船が差をつけているようにみえます。
・営業利益・純利益
2024年3月期第2四半期の営業利益・純利益は以下の通りです。
営業利益は日本郵船が約2倍上回ったのに対し、純利益は商船三井が上回りました。
両社とも好調だった前年同期から大幅に減益となりました。
なお、一般的には純利益は営業利益よりも小さくなりますが、両社は純利益の方が大きくなっています。
珍しいですね。
持分法による投資利益(営業外収益)が大きいことが要因で、絶好調だった直近2年もこの持分法による投資利益が非常に大きく利益を押し上げました。
営業利益・純利益についても売上高と同じく、業績の推移に合わせて両社とも、決算発表毎に通期業績予想を修正しています。
【日本郵船】
■営業利益
期初:128,000百万円
→ Q1:146,000百万円(上方修正)
→ Q2:165,000百万円(上方修正)
■純利益
期初:200,000百万円
→ Q1:220,000百万円(上方修正)
→ Q2:変更なし
【商船三井】
■営業利益
期初:105,000百万円
→ Q1:100,000百万円(下方修正)
→ Q2:90,000百万円(下方修正)
■純利益
期初:210,000百万円
→ Q1:215,000百万円(上方修正)
→ Q2:220,000百万円(上方修正)
日本郵船のセグメント利益構成比は以下の通りです。
売上高の48%を占めるが不定期専用船事業が、利益の63%を占め、稼ぎ頭です。
定期船事業、航空運送事業、物流事業をあわせた「ライナー&ロジスティクス事業」は36%です。
商船三井のセグメント利益構成比は以下の通りです。
売上高の37%を占める製品輸送事業が利益の48%を占めます。
同25%のエネルギー事業、同21%のドライバルク事業が続きます。
過去11年(2013年3月期~2023年3月期)とこのQ2の営業利益・純利益の推移は以下の通りです。
2022年3月期、2023年3月期がいかに特需で大きな利益をあげたかがわかります。
過去11年の営業利益のうち、日本郵船は1年、商船三井は2年赤字です。
過去11年の純利益のうち、日本郵船は2年、商船三井は3年赤字です。
営業利益と純利益を見比べると、営業利益で日本郵船が大きく上回る年でも、純利益では両社の差が縮まったり、商船三井が上回るケースが散見されます。
・利益率・ROE
2024年3月期第2四半期の利益率・ROEは以下の通りです。
営業利益率は日本郵船が上回り、純利益率・ROEは商船三井が上回りましたが、利益率は年によって優劣まちまちです。
過去11年(2013年3月期~2023年3月期)とこのQ2の営業利益率・純利益率の推移は以下の通りです。
純利益率を見ると、過去黒字の年でも利益率は0~3%ほどでしたが、2022年3月期は日本郵船:44.2%、商船三井:55.8%、2023年3月期は日本郵船:38.7%、商船三井:49.4%と非常に高い利益率を記録しました。
営業利益率に比べて純利益率が大きく跳ね上がっているのは、上述の持分法による投資利益によるものです。
今期Q2は利益率が落ち着いてきています。
■BS(貸借対照表)の比較
次に、BSを比較します。
2024年3月期第2四半期の資産合計、自己資本、現金、有利子負債、自己資本比率は以下の通りです。
資産合計はわずかに日本郵船が上回りましたがほぼ同規模です。
両社を比較すると、日本郵船の方が、自己資本比率が高く、現金は多く、財務の安全性は高いです。
一方の商船三井は日本郵船の約2倍の有利子負債を抱えています。
両社のBSを図にすると以下の通りです。
両社とも固定資産が大きいのが特徴です。
その主な内容は両社とも投資有価証券です。
日本郵船は固定資産の約55%(1,688,380百万円)が、商船三井は固定資産の約46%(1,430,873百万円)が投資有価証券です。
投資有価証券を保有している会社のうち、保有比率が20~50%未満で、連結子会社ではなく持分法適用会社となる会社の業績が、上記の持分法による投資利益に取り込まれていきます。
ONEホールディングス(オーシャン ネットワーク エクスプレス ホールディングス)という海上運送事業を行う会社がありますが、この会社は日本郵船:38%、商船三井:31%、川崎汽船:31%と、海運大手3社それぞれが出資しており、3社それぞれの持分法適用会社です。
この会社の好業績が、直近2年で海運3社に大きな利益をもたらしました。
■その他の項目(株価、配当など)
株価、配当など、そのほかの項目を比較すると以下の通りです。
・PER・株価
PERは日本郵船:8.6倍、佐川:6.4倍です。
両社の株価の推移は以下の通りです。
まずは日本郵船です。
続いて、商船三井です。
・配当・増配率
配当利回りは、日本郵船:3.42%、商船三井:4.90%と、商船三井が上回りました。
過去8年間と2024年3月期予想の両社の配当の推移は以下の通りです。
2022年3月期、2023年3月期は好業績を受けて配当額も跳ね上がりました。(特に日本郵船)
ただし、上記の表の通り、2倍以上増配している年もあれば、業績不振や赤字転落によって減配や無配になることもあるのが特徴です。
安定した配当を継続、という業界ではありませんので、目先の配当利回りで高配当銘柄であると判断せず、その特徴も踏まえて投資判断をすることが大切です。
■おわりに
海運大手2社の比較、いかがでしたでしょうか?
グラフや決算説明資料を多く用いて、視覚的に両社の違いを感じて頂けるように意識しました。
持分法による投資利益の影響で営業利益よりも純利益が多いこと、BSに占める投資有価証券の割合が高いことなど、とても特徴的な財務諸表であると感じました。
2022年3月期、2023年3月期のように、爆発力がある一方で、業績や配当に安定感はなく、その特徴を把握した上で投資判断をしていく必要があると感じました。
個人的にあまり好みの財務諸表ではありませんでしたが、もし将来大幅に業績が落ち込んだり、減配・無配となって株価が大きく落ち込むことがあれば、さらに数年後の反転を期待して少しスパイス的にポートフォリオに入れ込むのも面白いかなと感じました。
資源や食料などの自給率が低い日本において、海外からの海運ルートでの輸入は生命線で、海運大手がなくなることは考えにくいため、遠い先の未来の投資候補銘柄として、時々観察しようと思います。
皆さんはどうお考えですか?
この記事を通して、複数の会社を比較する面白さを感じて頂けたら嬉しいです。
本日もお読み頂きありがとうございました!
★★私が株式投資において参考にした書籍を以下の記事にまとめています!★★
よろしければご覧ください!
コメント