私たちにとっても身近な食品大手の2社、カゴメとキユーピーを比較します。
複数の会社の決算書を比較することで、その会社の個性がよりわかるようになります。
この記事を通して両社の違いを感じて頂けたら、また少しでもあなたの投資の参考になれば嬉しいです。
なお、カゴメは12月決算、キユーピー11月決算と、決算期にズレがあります。
カゴメは2023年12月期決算、キユーピーは2023年11月期決算、いずれも2023年度第4四半期決算にて比較します。
■PL(損益計算書)の比較
まずはPLを比較します。
両社の売上高・営業利益・純利益と、増収率・増益率は以下の通りです。
・売上高
売上高はキユーピーがカゴメの約2.0倍と、大きく上回りました。
両社とも前年比で増収となりました。
増収率はカゴメが+9.3%と、キユーピーの+5.8%を上回りました。
過去13年間(2011年度~2023年度)と来期予想の売上高の推移は以下の通りです。
キユーピーは、2021年度は低迷しましたが、その後回復基調となっています。
・営業利益・純利益
営業利益・純利益はカゴメが2桁増益に対し、キユーピーが2桁減益と、対照的な1年でした。
キユーピーは主原料やエネルギー・一般原資材の高騰により減益となりました。
価格改定効果はあったものの、鳥インフルエンザによる影響もありました。
一方のカゴメは、原材料価格の高騰があったものの、国際事業の伸長により増益となりました。
米国では、価格改定、23年産原材料の切り替え時期後ろ倒し、Ingomarの持分法利益などにより、ポルトガルでは、トマトペースト価格の上昇などにより増益となりました。
過去13年間(2011年度~2023年度)と来期予想の営業利益の推移は以下の通りです。
以前はキユーピーが大きく差をつけていましたが、近年ではその差が縮まり、2024年度は逆転する予想になっています。
・利益率・ROE
両社の利益率・ROEは以下の通りです。
利益率・ROE、いずれもカゴメが上回りました。
過去13年(2011年度~2023年度)と来期予想の売上高営業利益率の推移は以下の通りです。
過去13年間の平均値では、カゴメ:5.4%、キユーピー:5.2%と拮抗していますが、2023年度、2024年度予想とカゴメが差をつけています。
マヨネーズの主な原材料である卵は「物価の優等生」とも言われ価格が安定していること、一方トマトケチャップの主な原材料であるトマトは天候や発育状況になどにより収穫量や価格の変動が比較的大きいことから、キユーピーの方が利益率の推移に安定感がありましたが、足元では鳥インフルエンザの影響もあり苦戦しています。
■BS(貸借対照表)の比較
次に、BSを比較します。
2023年度第4四半期の資産合計、自己資本、現金、有利子負債、自己資本比率は以下の通りです。
資産合計はキユーピーがカゴメの約1.6倍、自己資本は約2.1倍、現金は約1.8倍と、それぞれ上回りました。
にもかかわらず、有利子負債はキユーピーの方が少ないです。
カゴメは現金の約1.8倍の有利子負債を抱えているのに対し、キユーピーは有利子負債の約2.4倍の現金を保有しています。
カゴメの有利子負債について、決算短信にこのような記載がありました。
「Ingomar社の出資持分50%に係る取得価額243,341千米ドルは、全額をブリッジローンとして金融機関から円貨で借 り入れております(借入総額 36,046百万円)」
もともと20%を保有していた米国のIngomar社について、2024年1月に追加で50%を取得し、連結子会社化することが発表されました。
借入を活用して積極的に規模の拡大を目指しています。
財務の安全性という観点ではキユーピーの方が高いと言えますが、積極性という観点ではカゴメが上回ります。
両社のBSを図にすると以下の通りです。
短期的な安全性を示す流動比率(流動資産÷流動負債×100%)は、カゴメが164.7%、キユーピーが223.8%でした。
カゴメは、現金の約1.8倍の有利子負債を抱えている割に、流動比率が高いなと感じました。
その要因は流動資産に含まれる「棚卸資産」75,198百万円(流動資産の45.5%)です。
棚卸資産はいわゆる「在庫」のことで、これから販売していく商品のことです。
すべてが売れれば問題ありませんが、商品が売れないとその在庫は「不良在庫」として処分する必要があり、その分損失となりますし、在庫を減らすために値引き販売をすれば、その分利益率の低下につながります。
流動資産として計上されていますが、本当に“資産”としての価値があるのかは注意する必要があります。
カゴメ(IFRS(国際会計基準)適用)とキユーピー(日本基準適用)で会計基準が異なるため同じ項目で比較ができませんが、キユーピーの「商品及び製品」「仕掛品」「原材料及び貯蔵品」は43,993百万円(流動資産の24.2%)で、明らかにカゴメの在庫が積みあがっていることがわかります。
過去13年(2011年度~2023年度)の在庫の推移は以下の通りです。
両社ともに2023年度は在庫が増えています。
上記の通り、売上高が少なく、資産合計が小さいカゴメの方が、在庫に関する懸念は大きいと言えます。
■CF(キャシュフロー計算書)の比較
続いて、CFを比較します。
2023年度第4四半期のCFの概要は以下の通りです。
キャッシュフローの概要を図にすると以下の通りです。
まずは、カゴメです。
特筆すべきは財務CFが大きくプラスな点です。
主な内容は短期借入金の純増減額(+9,209百万円)、長期借入による収入(返済による支出との純額で+9,522百万円)、です。 上記のIngomar社の株式追加取得のための借入でしょう。
続いてキユーピーです。
カゴメと比べると営業CFが多いです。
投資CFの主な内容は有形固定資産の取得(▲15,164百万円)です。
財務CFの主な内容は配当金の支払い(▲6,950百万円)、短期借入金の純増減額(▲1,179百万円)です。
借入を増やしているカゴメと対照的に、キユーピーは借入金の返済を進めています。
■その他の項目(株価、配当など)
株価、配当など、そのほかの項目を比較すると以下の通りです。
・PER・株価
PERは、カゴメ:17.2倍、キユーピー:27.8倍と、カゴメの方が割安です。
両社の株価の推移は以下の通りです。
まずはカゴメです。
続いて、キユーピーです。
・配当・増配率
配当利回りは、カゴメ:1.45%、キユーピー:1.81%。
配当性向は、カゴメ:24.9%、キユーピー:50.4%です。
カゴメの2024年度予想には125周年の記念配当10円が含まれています。
直近7年(2017年度~2023年度)と来期予想の1株配当の金額は以下の通りです。
2018年度はカゴメが創業120周年を記念して10円の記念配当、2019年度はキユーピーが創業100周年を記念して5円の記念配当を行いました。
・株主優待
株主優待は株式投資の楽しみの1つです。
両社とも株主優待があります。
カゴメは100株以上1,000株未満保有の場合、年に1回2,000円相当の自社商品詰合せが送られます。
6ヶ月以上の継続保有が条件です。
キユーピーは100株以上500株未満保有で、年に1回1,000円相当の自社商品詰合せ送られます。
6ヶ月以上の継続保有が条件です。
なお、余談ですが、キユーピーの中にアヲハタのジャムがあります。
アヲハタは東証スタンダード市場上場の企業ですが、キユーピーの子会社で、株式の44.4%をキユーピーが保有しています。
■おわりに
食品大手2社の比較、いかがでしたでしょうか?
グラフや決算説明資料を多く用いて、視覚的に両社の違いを感じて頂けるように意識しました。
PL面では、売上高では上回ったものの利益面では減益と苦戦しているキユーピーと、増収増益のカゴメ。
BS面では、借入も活用して積極的に投資をしているカゴメと安全性の高いキユーピー。
様々な点で両社の違いを感じて頂けたのではないでしょうか。
なお、直近四季報のコメントは以下の通りです。
■カゴメ
【評価益】国内は23年産原料高く、2月値上げ後の数量減痛い。海外は外食用途の業務用続伸。持分適用だったトマト加工会社を前半連結化で売上上乗せ。同社の期間利益に加え、時価評価益が営業益押し上げ。 |
【連結化】360億円投じて春までに株式追加取得し、米国2位のトマト一次加工会社を子会社化。調達安定化狙う。非トマトは他社と協業で植物性素材用いた商品拡大。 |
■キユーピー
【好 転】マヨネーズは値上げ効果で増勢。ドレッシングは数量増で牽引。業務用調味料回復、卵も利益改善進む。海外は中国、東南アジア着実。鶏卵や食油資材高の影響薄れ営業益好転。工場や設備関連特損。 |
【対 策】鶏卵は輸入や調達先開拓、在庫増やすなど対策強化。25年にインドネシア、タイの工場新棟が本格稼働、国内供給や輸出拡充へ。米国も東海岸での拡大に本腰。 |
この記事を通して、複数の会社を比較する面白さを感じて頂けたら嬉しいです。
本日もお読み頂きありがとうございました!
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